先月サモナーズリフトチーム(バランスチームを内包する大型チーム)により、パッチ9.13のバランス調整に関する議論をリアルタイムにツイートする試みが行われました。今回はツイートの内容を振り返りつつ、パッチがどのように作リ出されていくかをしっかりと紹介していきたいと思います。
お気に入りのチャンピオンがナーフ(弱体化)された理由についてお話しする前に、まずは最高に心躍る部分からスタートしましょう…そう、計画立案です。
すべてを網羅するプランを立てる(「ほぼ」すべて、ですね…)
パッチサイクルの最初には毎回「スプリントミーティング」を行います。これはゲームプレイデザイナーたちが今回のパッチサイクルで取り組む中規模変更の内容を決める場です。具体的には、アイテムの変更(例:グインソー・レイジブレード)、チャンピオンのプレイ体験改善アップデート(例:ブリッツクランクの固有スキル)、今後リリース予定/リリース直後のチャンピオンのサポートなどです。また2020プレシーズンなど将来的な大規模ゲームプレイ変更についても並行して計画を立てていきます。また、この場で直接バフ(強化)/ナーフ(弱体化)の具体的内容となる数値変更を計画することはありません。そういった種類の内容は各パッチサイクルの最後に取り組みます。
取り組むべき中規模変更の内容を選んだら、続いて次の質問を投げかけます(順番も下の通りです)。
- 現在LoLに、単純な変更では解決できず、長い時間プレイテストをして検証する必要のある懸念事項はあるか?
- 前回から持ち越している作業はないか?
- 6~8週間で完了できる規模で、現在LoLに求められている事項はあるか?
決定を下すときにはLoLのゲームプレイをかなり広い視野で見渡します。全スキル帯のアカウントデータや世界中のプロリーグのデータも、LoLの現状に関するチームの共通理解もふまえた上で決定するわけです。
そして9.13のスプリントミーティングが終わり、注力する対象が決定。今回はスウェイン、ロッド・オブ・エイジス、パイクのソロレーナーとしての性能、ウディア、イラオイ、モルデカイザー(ホットフィックスの可能性あり)、そしてプレシーズンの変更です。
方向性を選択する
次に、各要素に対して立てた目標を「どうやって」達成するかを考えていきます。言葉にすると単純そうですが、ここが一番時間のかかる工程です。プレイヤー、データアナリスト、QA(品質管理)アナリスト、他のゲームデザイナーなどからフィードバックを集めながら「変更リスト」(変更予定内容の概要一覧)を何度も何度も更新していきます。
自分以外のチームメンバーから短時間で意見を集める時には、隔日で行われている「ライトニングトーク」で話すのが有効です。ここではゲームデザイナーがチームメンバーに向けて変更内容を提案し、他のメンバーはそれぞれに意見やアイデア、懸念点などを返します。ただし部屋いっぱいにゲームデザイナーが集まっている以上、変更案を出すと毎回話が長く深くなっていくのは自然の摂理です。そこで1トピックあたり4分という制限を設け、それが過ぎたら引き続き話すべきか、次のトピックに移るかの決を取ります。
先述のミーティング以外にも、1日2回行われるプレイテストにはサモナーズリフトチーム全体(データアナリスト、エンジニア、マネージャーも含む)が参加します。変更案のプレイ感をゲーム内で実際に確かめることができるため非常に有用です。また社内には高ELO帯のQAアナリストだけで構成されたチームがあり、そちらでも独自のプレイテストを毎日実施してゲームデザイナーに「変更案が目標に届くものかどうか」のフィードバックを提供しています。なお、このプレイテスト中には温かい親しみの込もった/プロ意識の発露のような煽り行為も見ることができます。
パッチ9.13のバランス調整内容が、スプリントプランニング初期からパッチサイクル終了にかけてどう変化していったのか…これは気になりますよね。以下がその概要です。
イラオイ
チャンピオンをバフする必要がある場合、数値を上げるだけで改善することもあります。しかし時には比較的短期間でゲームメカニクス(ゲームプレイの要素)を改善できるチャンスとすることもできます。今回のイラオイは後者のケースで、少しプレイ体験を改善すれば彼女の状態を現代的な水準にぐっと近づけられると考えました。
Riot Sotereはこれを踏まえた上で「変更リスト」の初版を作成。このリストには、イラオイが「取っておける」触手のストック可能数をひとつ増やす、Wがタワーにも当たるようにする、「イラオイにダメージを与えると魂を抜き取られている時間が短縮される」仕様の削除がありました。
結局、触手を複数ストックできるアイデアは期待したほど良いプレイ感を出せなかったため削除し、それ以外のプレイ体験改善案に注力することにしました。具体的にはイラオイがエリア外に出ても触手が動作を止めなくなるようにした点、そして触手が叩きつける姿が視界の有無にかかわらず見えてしまっていたバグの修正です。そしてこれらの修正はイラオイを現代的な水準に近づける改善案である上にバフにもなるということでチームの合意も得られたので、(イテレーション*の1巡目で導入が決定したその他多数の変更点と同じく)パッチに含めることにしました。*イテレーション:ゲーム開発においては同じ工程を短期間に何度も繰り返すことで完成度を高める手法が取られることが多いのですが、この繰り返される工程1回のことをイテレーション(直訳で「繰り返し」)と呼びます。
パイク
パイクのゲームデザインは「アサシンサポート」というLoLにおけるニッチな空白を埋めるべく作られたものです。これを考慮すると、ソロレーンでの活躍に引きずられる形でサポートパイクの性能が下がってしまうのは避けたいと考えました。プロシーンでソロレーンパイクが勢いを見せ始める傍らで、ソロキューにおけるサポートパイクの勝率は低い状態。チームはこの状況を正しいバランスに正そうと試みました。
パイクの固有スキルには体力回復があり、これがレーン戦で相手からのハラスに強いという特徴を生んでいます。そこでRiotRepertoireはこの部分のナーフに注目し、より明確な弱点を作ろうとしました。パイクの体力回復を(固有スキルではなく)Wに移せば、ソロレーンのパイクがレーン戦のハラスに耐えるには序盤のスキルポイントをWに振らざるを得なくなり、レーン戦での戦闘能力とミニオン処理能力を下げられる、というのが彼のアイデアの骨子です。こうした場合、サステイン能力を得ようと思ったら(Qの代わりに)Wをレベルアップさせる必要が出てくるため、サポートパイクよりもソロレーンパイクにとって大きな痛手になるだろう、と考えたわけです。
しかしプレイテストとディスカッションを重ねていった結果、これではソロレーンパイクだけでなくサポートパイクにも弱体化(ナーフ)の影響が大きく出てしまうため、チームはこれを良案とは判断できませんでした。そこでRiotRepertoire はレーン戦でのサステイン部分ではなくミニオン処理能力(ソロレーンで特に重要になる側面です)に注目し、ミニオンに対するスキルダメージを低下させることにしました。最終的にチームはこの方向性で同意し、パッチ9.13に導入されています。
ロッド・オブ・エイジス
他の魔力/マナ系アイテムと比較した場合、ロッド・オブ・エイジスは私たちの期待する位置にいないアイテムでした。そして現在はマナ系アイテムのバランスを刷新するような変更をするつもりもありません(「今ロストチャプターを変更するつもりはない」とも言えるでしょう)。そこで、ロッド・オブ・エイジスはより使い所のある/強力なアイテムにする方向でいくことになりました。
RiotRepertoireは当初、ロッド・オブ・エイジスをメイジ向けのより現代的な継戦能力特化アイテムとするべく、大幅変更を入れようとアイデアを探していました。また、これに合わせて久遠のカタリスト、悲愴な仮面、ライアンドリーの仮面、アビサルマスクにも細かなアップデートを入れました。結果、最初のイテレーションは次のような結果になりました。
ロッド・オブ・エイジス、そして悲愴な仮面とライアンドリーの仮面に対する最大の変更点は、「狂気」というスタックシステムの追加でした。「狂気」アイテムは敵チャンピオンとの戦闘が続くとスタック(最大10)を獲得し、このスタックは魔力に変換されます。この変更案は増加ダメージと継戦能力の両方を提供することで、(ロッド・オブ・エイジスがもたらすサステイン能力と組み合わせることでさらに)長時間の戦闘でスキルを何度も回していくような魔力攻撃系(AP)チャンピオンを有利にするものでした。
これについてはプレイテスト結果もフィードバックも概ね肯定的でしたが、結局パッチ9.13への導入は見送られています。他の色々な要素と同じく、シーズンの途中で大規模変更を入れるのはリスクが大きすぎると判断したためです。複数のアイテムの性能を変えると、その影響は広範囲にまで及ぶ可能性があり、その潜在的影響をすべて理解するには時間が足りないと考えたのです。
そこでRiotRepertoirは、代わりにロッド・オブ・エイジスのシンプルなバフ、すなわち作成コストを僅かに減らす案を取っています。先述の大規模変更は方向性としてはチーム一同ワクワクしていますが、おそらくプレシーズンまで導入することはないでしょう。
新たなるチャレンジャー!
規模の大きなチャンピオン変更をする場合、サモナーズリフトチームはチャンピオンチームと作業を協力して進めることがあります。単純なバフや弱体化ナーフでは解決できない一方で、「チャンピオンアップデート」と呼ぶほどではない規模の場合がこれにあたります(好例がパッチ9.9のエイトロックスに対する変更です)。こういうケースでは数値の調整やプレイ体験改善だけでは問題を解決できなません。しかも取りうる解決策が多数存在する場合も多く、どれが最適解であるかは試してみなければ分からりません。こういった理由から、この種の変更はたいてい数週間以上の時間が必要になります。
そしてパッチ9.13では、RiotRepertoirがアカリの長期的プラン作成に取り掛かりました。
実際のツイートに興味がある方はRiotRepertoirのEメール全文、Riot Blaustoiseからのフィードバック、現在の変更リストをご覧ください。
仮にチームがすぐ同意して方向性が確定したとしても(めったにないですが)、こういった変更が次のパッチで導入されることはありません。LoLプレイヤーは世界中にいて使う言語の数も数十にのぼるため、ゲーム内のツールチップを変える変更は必ず各地域のチームが翻訳する時間を確保する必要があるためです。
イラオイの変更はすでに実装済みですが、リスト全文はこちらです。
私のチャンピオンにどうかバフを!
パッチサイクルも終盤に差しかかると、チームはバランス調整でも議論の種になりやすい傾向がある「チャンピオンのバフ/ナーフ」に取り掛かります。パッチサイクルの最終盤にシンプルなバフ/ナーフを判断するにあたり、チームは直前のパッチのデータを可能な限りかき集めます。これは通常、実装から5日分ほどのデータになります。
チームが2週間ごとに開催している「ゲームの現状」ミーティングでは、現行パッチから引っ張ってきたデータを元にバフ/ナーフ対象チャンピオンを見ていきます。このときには先日定義されたデータしきい値を参照し、勘や推測の余地を排除します。このしきい値は全スキル帯におけるチャンピオンの強さを客観的に見られるだけでなく、バランスが崩れたチャンピオンを見逃さなくなる効果もあります。
参考用に、改めて各しきい値を紹介しましょう。
プレイレベル |
次のいずれかの条件が真の場合:弱体化(ナーフ) |
次のすべての条件が真の場合:強化(バフ) |
平均帯 ゴールドI以下 |
バン率がABR(平均バン率)を下回り、勝率が54.5%を超える ~ バン率がABR(平均バン率)の5倍を超えており、勝率が52.5%を超える |
勝率が49%未満 |
高スキル帯 プラチナIV~ グランドマスター |
バン率がABR(平均バン率)を下回り、勝率が54%を超える ~ バン率がABR(平均バン率)の5倍を超えており、勝率が52%を超える |
勝率が49%未満 |
エリート帯 チャレンジャー |
バン率が45%を超える |
バンピック率が5%未満 |
プロ トップ5地域 |
現行パッチでバンピック率が90%以上 または 平均バンピック率が2パッチ連続で80%を超える |
バンピック率が5%未満 |
そして以下はパッチ9.12から取得したデータです。縦軸が勝率、横軸がバン率です。
これらを参考にした結果、パッチ9.13のバフ/弱体化ナーフ対象チャンピオンとアイテムは以下のようになりました。
バフ(強化):
- サイラス
- シンドラ
- オーン
- トリスターナ
- ランデュイン・オーメン
ナーフ(弱体化):
- シヴィア
- カルマ
- ソナ
- セジュアニ
- エッセンスリーバー
メインチャンピオンがナーフされた他のプレイヤーをネタにしていたら、次のパッチで自分のメインがナーフされた
大抵の場合、これらのデータは客観的視点をもたらす役割を果たしてくれます。しかしデータ上修正の必要がなくとも、チームメンバー全員が積み重ねてきた知識と経験を生かし、主観的に変更を行うケースというのもあります。今回のパッチにおけるソナがその好例でしょう。当時のソナは全スキル帯でバンピック率が高いものの、ナーフ確定に至るほどしきい値を超えているわけではありませんでした。しかしチームは当時の彼女がもたらすプレイスタイルを健全でないと見なしており、メタとは無関係ながら変更に値すると判断したのです。
ランデュイン・オーメンやエッセンスリーバーのようなアイテムについては、皆さんと共有するほどの情報はありません。アイテムの変更は大抵の場合、チームの経験と観察に基づいて行われます。バランスチームの仕事は結局、彼らのゲーム知識とメタの把握力に基づいて意思決定をするところにあるわけです。
今回エッセンスリーバーをナーフすると判断した背景には、同アイテムに繰り返し細かなバフを施したところに新しいインフィニティ・エッジが登場したことで、2アイテムのビルドとリーサルテンポの組み合わせが「長期的に使われ続ける」ことを前提に考えると想定よりもわずかに強すぎたことがありました。
ランデュイン・オーメンをバフした理由は、本来なら強力なアイテムだと感じられるべき状況における有効性が低く見受けられためです(クリティカルビルドへの優れた対応策となるべき)。また現在のメタでタンクが強くないこともランデュインをバフする余地と捉えました。
私のチャンピオンにもっともっとバフを!
バフ/ナーフするチャンピオン(とアイテム)を確定させたら、次はどう調整するかを決定する必要があります。
ナーフする場合はほとんどの場合「このチャンピオンが示している問題は何か?」や「このチャンピオンが持つ弱点が役目を果たしていないのか?」と自問するところからスタートします。セジュアニはプロシーンでのみしきい値を超えたケースだったので、プロが彼女を重視する理由を深く探っていきました。結果、プロシーンでは序盤からワーモグアーマーを作りに行っているところに着目し、レベルアップ時の体力増加量を減らしました。これであれば、プロは同じ戦略を機能させるまでより長い時間が必要になるのに対し、ソロキューでの強さはそれほど大きな影響を受けずに済みます(一般的にプロは基本ステータスの変更を受けて行動を変えることはあまりありませんが、彼らがそのチャンピオンの強みだと考えているポイントが変更されると対応を取ります)。
一方でバフする場合は、多くの場合まず「このチャンピオンが最も活躍できていないプレイヤー層は?」と自問します。一般論としては、あるチャンピオンのパフォーマンスが全スキル帯で低~平均レベル間にあるときにバフを行いますが、大抵は一部のスキル帯で特に低迷していることが多いようです。シンドラがまさにそうで、プロシーンでは「使用可能」レベルでもソロキューではかなり苦戦していました。ただシンドラはメタを大きく変えうるチャンピオンですから(特にプロシーンで顕著ですね)、あまり大幅なバフは避けたいとも考えていました。そこでまずレベルアップ時のマナ増加量を増やし、全スキル帯での可用性を高めようと試みました。これは特にマナ枯渇に悩むプレイヤー帯にとって有効であるでしょう。
チャンピオンをバフ/ナーフすると決定する時には、同時に変更後のソロキュー勝率目標も設定します(プロシーンを理由にナーフする時は、対象がしきい値を超えないようにすることが唯一の目標になります)。たとえば今回のシンドラの場合は勝率上昇目標を0.5~1%と設定していたため、勝率にわずかな影響しか及ぼさないマナ上昇量を変えることにしています。
逆にチャンピオンの勝率上昇目標が大幅(2%以上)である場合、序盤における強さを調整するとソロキューの成績が大きく影響を受けることが分かっています。たとえばADCの攻撃力を3減少させるとかなり有意な影響が生じます。スキルランク序盤の基本ダメージを変更した場合も勝率は大幅に変動しますが、スキルランクが高くなってからの基本ダメージやランクアップが遅めのスキルの基本ダメージを減らしても影響はあまり出ません。
ここから何をする?
パッチのリリース…まであと少し。次は変更内容とその経緯をまとめたパッチノートを書き、それを各地域に送って翻訳してもらいます。その間にチームはパッチの導入準備を整え、サーバーを短時間落とし、「GO」と書かれた緑色の巨大ボタンを押せばパッチがリリースされます(実際にはそんなボタンはないですが)!
そしてこの頃には、もうチームは次のパッチにがっつりと取り組んでいる、というわけです。